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【5月公開の注目映画】編集部のおすすめ5選

(C)2017 AI Film Entertainment LLC

 

1.『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』

救いようがないトーニャと彼女が身を置く環境を追いながら、気づいてしまったのは、観ている自分の中にある人間的な醜さや怖さだった。
彼女に顔をしかめながら、同情しながら、その人生が波乱を極めていくのをどこか期待している、スクリーンで起こる事実を前に、数々の“スキャンダル”を楽しんですらいる自分に。

貧しい家庭にて、幼いころから厳しく育てられたトーニャ・ハーディンは、その才能と努力でアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、92年アルベールビル、94年リレハンメルと二度のオリンピック代表選手となった。しかし、彼女の夫であったジェフ・ギルーリーの友人がトーニャのライバルであるナンシー・ケリガンを襲撃したことで、彼女のスケート人生の転落が始まるー。

わがままで自己中心的、それでありながら、いや、観終わった今はそうであったからこそというべきか、自己愛も依存性も強いトーニャ。人道に外れたDV夫に超絶的毒親の母。誰をとっても救いようがない人物たち。
才能はあれども、育ちの良さが左右する品性や、豊かな心を以って昇華される芸術的表現力の高さ。トーニャの育った環境からはとてもじゃないけど得られない。はっきり言って、切なかった。

暴力に育ち、暴力に恋をして、暴力から逃れられない人生。
彼女は悪いけれど、あんな風に“成った”生い立ちに、思わず悲しくなってしまう。なのに、それらを小気味好く、もう笑うしかないほどのハイテンポさでコミカルに描いているのがまた新しく、なんとも言えない気持ちになった。

「I, Tonya」そのタイトルに込められた真意を考える。
一度は栄光を掴みアメリカ中から愛され、そして嫌われたトーニャ。
彼女はこちらに、私に向かってそう言っていた気がした。
「私は悪くない」「私のせいじゃない」
そう繰り返す彼女の声がまなざしが、氷の上を滑る鋭い刀が、切れた靴ひもが、胸にガンガンと突き刺さる。

▼Information
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
TOHOシネマズ他、全国公開中

監督:クレイグ・ギレスビー
脚本:スティーブ・ロジャース、クレイグ・ギレスビー
主演:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャネイ、マッケナ・グレイス
配給:ショウゲート
公式HP: tonya-movie.jp

 

(C)2017 Stronger Film Holdings,LLC. All Rights Reserved. / (C)2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

2.『ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜』

“これは勇気の正体の物語
勇気は自分の中にはない それは人からもらい、人に与えるもの”

2013年に起こったボストンマラソン爆弾テロ事件。思いを寄せる元恋人の応援に駆けつけたジェフ・ボーマンは、その被害に遭い、両脚を失った。
大怪我を負いながらも犯人逮捕に貢献したジェフの不屈の精神は“ボストンストロング”として復興の象徴になり、彼は一躍ヒーローとなった。しかし、日々の生活もままならない現実、弱い自分。ジェフはやがて、世間と自分自身のギャップにもがき苦しむようになるー。

これは「あるテロ事件で両脚を失った男が、愛と努力で立ち上がるまでの感動的な物語!」ではない。“全米が泣いた!”“奇跡の実話”。そんな常套句にとどまる映画ではないことを先に言っておこうと思う。
もっとリアルで、本当の意味での“英雄”って何なのかを問いかける、人間の真実味を背負った物語だった。
そして、それらの本質を一身に纏ったジェイク・ギレンホールの卓越した魅力を目に焼き付ける映画でもあった。

「あなたは強い!立ち直れる!」という家族や世間の呪縛、「ボストンストロング!」という熱気と喝采の中、アメリカの強さの象徴であることを強いられるプレッシャー。でも、違う。悪い時も、ダメなところも数え切れないほど持ってる。生々しくて弱いから、その手を取って生きている。

強さというものは、弱さの中にしかないのかもしれない。
そして、それは人一人だけの力では生み出されないもの。
誰かの手を握った時に、優しい額に触れたその時に、湧いてくるものなのかもしれない。この映画は改めてそんなことを教えてくれた気がする。
そして、英雄=ヒーローは、決して大勢にとってのものではないこと。
弱くてもダメでも、ヒーローはヒーロー。
代わりのきかない、たったひとりの英雄なんだということ。

▼Information
『ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

原作:ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッター著「STRONGER」
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本:ジョン・ポローノ
出演:ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、クランシー・ブラウン
公式HP: bostonstrong.jp


 

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema


3.『四月の永い夢』

『走れ、絶望に追いつかれない速さで』もそうだった。
中川龍太郎の映画は、親しい誰かの死というものから物語が紡がれていた。
それも、死で失うことを描くのではなく、死を以って生を、失うことで歩き出すことを丁寧に描くのだ。詩のような行間で問いかけながら。

3年前に恋人を亡くした27歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出す。元教え子との遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白。そして心の奥の小さな秘密。
喪失感から緩やかに解放されていく初海の日々はどう続いていくのだろうか。

心に棘を抱えながら生きる初海(朝倉あき)、彼女の日常に突飛な光を与える元教え子の楓(川崎ゆり子)、前に進めない彼女に寄り添う妊娠中の友人朋子(青柳文子)、そして亡き恋人の優しく偉大な母(高橋惠子)。女優陣の、か弱く丸く、激しく強く、どこまでも優しい“声”が映画を包み込んでいるように思った。それこそ、行間のようなさりげなさで、声が物語を包んでいた。

手ぬぐいの中で踊るように泳ぐ金魚花火。
それを見上げる初海の瞳が夢の終わりを見つめていたように思う。
何かを失った時と、それを痛感する時。その間には少し時差があり、温度差がある。
まだ肌寒さを名残らせながらも、とどまっていることが、立ち止まっていることが難しい四月という季節の中で、晩夏の熱気をはらんだ胸騒ぎがふと安堵に変わる夏の夜が始まった気がした。

前作のタイトルから感じた「生かねばならない」という気持ち。
そして、『四月の永い夢』も、終わりの見えない夢から覚めるその瞬間の情景が浮かんだ。そしてそれはやっぱり、私たちが漏れなく「死」に向かって“生きて”いるから、死ぬまでは、生かねばならないからなのだろうと思った。

▼Information
『四月の永い夢』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本:中川龍太郎
出演:朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣、志賀廣太郎、高橋惠子
配給:ギャガ・プラス
公式HP: http://tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/


 

(C)2018映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館


4.『恋は雨上がりのように』

2014年に連載を開始するやたちまち話題となった原作『恋は雨上がりのように』。
登場人物たちの繊細な心情を描いたストーリーが共感を呼び、各マンガ賞に軒並みランクインする、注目のコミックだ。
先に言ってしまおう。かくいう私も原作の大ファンである。
タイトルといい、主人公の女子高生あきらのキャラクターといい、その恋や夢の不器用さ、悩ましさといい。思わず、「がんばれ!」と声に出してしまいそうになる、切実な物語なのだ。

高校2年生の橘あきらは、アキレス腱のケガで陸上の夢を絶たれてしまう。
偶然入ったファミレスで放心しているところに、優しく声をかけてくれたのは店長のだった。それをきっかけに、あきらはファミレスでのバイトを始める。バツイチ子持ちでずっと年上の近藤に密かな恋心を抱いて……。

そして、実写のキャスティング。そのピッタリ感と言ったらもう…。一見クールで、笑うとどうしようもなく可愛い主人公の女子高生あきらに小松菜奈、独特の包容力とユーモアで安心させてくれる店長は大泉洋。あくまで自分調べではあるが、コミックの実写化において、かつてないハマりっぷりに感銘を受けてしまった。清野菜名、磯村勇斗、葉山奨之、松本穂香、山本舞香、濱田マリ、戸次重幸、吉田羊… 2人を取り囲む個性派キャストの集結も映画の大きな楽しみだ。

軒下から飛び出して雨の中走り出すことも、雨が止むまで立ち止まることも、
自分の傘を差し出すことも、一つの傘に2人で入ることも、どれもできるけれど、どれも難しい。人生はいつだって青春で、いつからだって青春だ。
真っ直ぐすぎる17歳、さえない45歳。生きている時間も、環境も、何もかもが違うふたりに同時に訪れる、人生の雨宿りの物語。
私たちはいくつになっても、不器用で悩ましい。

▼Information
『恋は雨上がりのように』
5月25日(金)全国東宝系にてロードショー

原作:眉月じゅん『恋は雨上がりのように』(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載)
監督:永井 聡 脚本:坂口理子
出演:小松菜奈、大泉洋、清野菜名、磯村勇斗、葉山奨之、松本穂香、山本舞香、濱田マリ、戸次重幸、吉田羊
公式HP: http://koiame-movie.com/
 

 

(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation


5.『犬ヶ島』

『ファンタスティックMr.FOX』でストップモーション・アニメの新次元を切り開き、『グランド・ブダペスト・ホテル』でアカデミー賞にノミネートされたウェス・アンダーソン監督。物語、登場人物のキャラクター、それらの切り取り方、美術や衣装なども含め、徹底された独特のムードで観るものを魅了する。

そんな唯一の世界観でファンの心をつかむアンダーソン監督が、自身の最高傑作を塗り替える最新作を完成させたという。
日本を深く愛するアンダーソン監督が全編にわたり日本を舞台とし、「黒澤明と宮崎駿、二人の巨匠から強いインスピレーションを受けて作った」と語るのが、第68回ベルリン国際映画祭銀熊賞【監督賞】を堂々受賞したこの『犬ヶ島』だ。

舞台は近未来の日本。ドッグ病が大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に降り立った。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。

アニメはもちろんのこと、豪華すぎる声優陣がまた最高!
ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートンといった、アンダーソン監督作品常連の豪華俳優陣に加え、新たにスカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、ヨーコ・オノら多彩な才能を持ったキャストが集結。日本人キャストとしても、RADWIMPS野田洋次郎、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリらといった多彩なキャストが出演。

一つ一つ精巧にデザインされた“日本”のセットはもちろん、ユニークで愛くるしい犬たちと少年の間に芽生えていく温かい絆。に胸がいっぱいになる。
アニメだからできた、ウェス・アンダーソンだからできた、かつてない冒険物語だ。

▼Information
『犬ヶ島』
5月25日(金)公開

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソン、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎(RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ
公式HP: http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/



Text/Miiki Sugita